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2011年11月17日 (木)

医療のエラーを防ぐ方法/三方活栓

ある医療系のMLで、「三方活栓」が話題になったことがある。

何年か前、東海大学で小さな女の子の点滴の管に、胃に入れるはずの食事の管がつながれてしまって亡くなった事故があった。その後、点滴の管には胃に入れる管がつなげないように、管の径を変えたものが作られたのだそうだ。
ところが、その改良型の三方活栓は使われていないのだという。
「なぜ」
と聞くと、多くのドクターが返信してくれた。
「高いから」
しかし、
「じゃあ、どの位高いんですか?」
「分からない。そういうことは事務系がやっているので、ドクターや看護師にはタッチできない。」
「要望を出したことがあったが、高いということだった。」
「よくわからないが、高いのだと思っていた。」
「高いと聞いたことがある。」
「開発費、型などの改造の費用がかかるのではないか?」
概ね、そんな返信があった。


工業製品の開発に関わった人なら誰でも分かる。管の径がちょっと変わったからと言って、コストは高くならない。
特に、こういった消耗品は、型改造費をそのまま製品にオンしない。ほとんどの企業で消耗材の改造用金型代や開発費は別扱いのはずだ。価格は開発の時点で、そういう改造費をかけた上で、市場に見合う価格で売っても、改造費が何年かで消却できるプランを立てて検討される。たとえば、チョコレートの製品ラインアップの中に、イチゴ味を入れる場合、市場で100円というのが売れ筋なら、それは維持しなければならない。原価が多少高くても、開発費用がかかったとしても、100円にしなければ、消費者が黙っていない。要するに買わない。(もちろん、販売数が減っても、利益率を高くして。。という戦略もあるワケだが、こういう消耗品の戦略はそうではない)世の中のすべての新製品、改良品はみんな、同じ事情だ。だが、改造したからと言って、値上げをする例は滅多に無い。(こういった改良は、消費者が気づかない所でもたくさん行われている。)
特に消耗材の場合は、例外無く同じだと言っても良いはずだ。

こんな一般常識が、なぜ三方活栓では通用しないのか。
今日もまた、現場の医療者の方々は、間違えないようにと心をくだきながらお仕事をされていると思う。
チョコレートでは黙っていない消費者であるはずの医療者も、三方活栓のコストには紳士的。誰も値上げしても文句を言わないのではないだろうか。というより、現場の人間がコストを知ることができない仕組みなのだろう。これではメーカーが殿様商売になる訳だ。

そこで、ちょっと提案。
おそらく、東海大のような間違えるようなシチュエーションはそんなに無いのかもしれない。けれど、もし改良型の三方活栓の値段が普通の物と同じなら、すべて改良型を使っていても良いのではないだろうか?
メーカーは、メーリングリストのドクターたちが騙されたような理屈を言うだろう。しかし、上に書いたような論理は正しいはずだ。(間違っていたら、言って欲しい)これを是非、メーカーに言って、「値上げはけしからん」と掛け合って欲しい。
みんなでやれば、彼らも動くかもしれない。
特にこういう消耗品の金型は、生産している間に摩耗するため、時々作り直される。そのタイミングで改造されれば、全く通常のルーチンの一つだ。しかし、消費者の声が無ければ、同じ金型しか作られない。是非、「声」が欲しいものだ。

こんな例は医療の現場には多くあるのではないだろうか。そういうのを形にする良い旗印にならないだろうか。
幼くして、命を落としたMちゃんの尊い犠牲を、次の時代に形にして残してあげられらたらいい。


三方活栓の工夫のようなフールプルーフの余地は、医療の世界ではもっともっとあっても良いのではないだろうか?
こじつけに聞こえるかもしれないが、これも一つのユニバーサルデザイン。
ユニバーサルデザインの範疇をここまで広げるべきというのが、私の持論だ。

2、3年前だったか、デザイン系の講演会で、アメリカのエラーに関する研究者が来るというので行ったことがある。
T大のZ教授。アメリカでは毎日ジャンボジェット一機が落ちている勘定っていう事故があるそうだ。

すずめ日記の書き込みにも、ご親族が過誤にあわれたという方がいらしたが、そういう風に疑いを持てるのはまだ良い方ではないだろうか。もしかして、事故の原因が過誤であったというのにさえ、気がつかない人も多いのではあるまいか。

すずめがちょっと関わってる系のプロジェクトでもそういうのに関係したものがある。そのプロジェクトの仮称があまりにストレートだったので、仰天した。「これ、一般の人が聞いたらびっくりするよー。」っと言ったら、「大丈夫、医療者の中でのプロジェクトだから。」(誤解の無いように付け加えると、隠したり悪い事をしたり云々というのではなく、純粋に、技術的な方向性のもの)
過誤のすべてが不誠実であったり、どこかに隠蔽など悪意のある行為が関係したりしている訳ではないと思う。多くが、誠実に対応した結果、起こってしまったことで、後で考えると、別の方法を取っていたら防ぐ道もあったというものにすぎないものも多いのではないだろうか。

一般の世界では必ず不良率はある。片時も注意力を損なうことなく完璧な仕事をすることが前提の医療の現場。それに、無理は無いだろうか。
もちろん、この問いの答えが「yes 無理が有る」であったとしても、改良の余地のがあるわけではないだろう。うんとマンパワーを増やすとか、いずれにしろ大きなお金をかけるしかないのかもしれない。

しかし、ほんの少しの力にしかなれないかもしれないが、もっと、昨日書いたフールプルーフのようなアプローチがあっても良いのではないだろうか。

Z氏に聞いてみた。
「そういうフールプルーフの研究活動っていうのは、現場の人の細かい作業をプロフェッショナルのエンジニアが詳細にリサーチして、分析して初めてできることですよね。医療の現場にそういう人たちが入ることができているんですか?そしてもし、そういう研究があるとしたら、それはどういう機関がやっているんですか?」
それに関する彼の答えは歯切れが悪かった。

医療の現場にそういう人が入るのはなかなか難しいが、いくつか例があると思う。連携という形が多い。依頼を受けて、共同で研究/開発するというような。
(第二の質問に関しては)それをやっている機関としては、FDAとかがやっているはずだ。

このことば、もし、日本語に訳すとしたら、「厚労省がやっているはず」
ハイ、やっていないのかもってことですよね。彼のような研究者だったら、具体的に「ナンタラ機構」っていうような組織名が出てきてもいいはず。それがこういう抽象的な言い回ししかできないということは、具体的にどこもやっていないということではないだろうか。講演の後にも、もう一度突っ込んでみた。
「例でおっしゃったようなのの他に、こういう医療現場でのユーザビリティへのプロジェクトってあるんですか?」
「うーん、あると思うけど。。。」
日本での三方活栓のような問題も聞いてみたかったが、三方活栓なんていう英語が分からなくて時間も無かったし、そこまでの会話だった。が、少なくとも「いっぱいあるヨ」じゃあなかった。

この話をまた医療系のメーリングリストですると、やはりユーザビリティを研究されているドクターがレスポンスを下さった。
「実は厚労省で、誰かがそういうのをやっていないかという話になった。XXXがやっているはずだっていう。XXXに聞くと、YYYがやっていると。。。。」
要するに日本でも誰もやっていない。
すずめが入っている人間工学会でも、医療系の現場の一団があるが、研究の多くは現場の中での工夫だ。メーカーが提供してくれない中、自分たちだけでどう、がんばれるか。。というような。
いくつかの大学の何人かの研究者はそういうルートができつつあるようで、去年だったか、点滴のパッケージのグラフィックの試みを発表されていた。しかし、まだまだ、ほんの一角に過ぎない。1社だけでやっていくと、絶対にうまくいかないはずだ。一元的に扱える場で、トータルに考えていかないと。しかし海外製が多い中、難しそうだ。

キーパーソンはメーカーのR&D部門のエンジニアだろう。様々な分野のエンジニア/デザイナを一同に集めて、医療現場の細かい作業プロセスを前にプロの目で分析すれば、いろんなアイデアが生まれるに違いないと思うのだが。


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